AI入門の現場ノート / #001
第1回の課題で、ちょっと迫力のあることが起きていた。
237人の受講登録者のうち、194人が自己紹介LPを提出した。提出率82%。これだけならただの数字だが、内訳が異常だ。学生はAntigravityというAIツールと対話するだけで、書いたコードがGitHubに自動でプッシュされ、Vercelにデプロイされ、実際に世に公開されるWebページになっている。HTML/CSS/JavaScript、バージョン管理、クラウドへのデプロイパイプライン ── かつて半年かけて教えていた要素が、第1回の授業で194人分、同時に動いている。
正直、ここまでとは思っていなかった。
ここまでが第一の驚き。もう一つ、194件の提出文を読み通して見えたことがある。
「自分にとってAIとはどういう存在か」── 設問はこれだ。194人の答えを、ひとつ残らず読んだ。出てきた語を数えるとこうなる。
- 「道具・ツール」 46人 (24%)
- 「パートナー」 31人 (16%)
- 「サポート / サポーター」系 25人 (13%)
- 「先生 / メンター / アシスタント」系 21人 (11%)
- 「相棒」 18人 (9%)
- 「友達 / 友人」 14人 (7%)
このうちの どれかひとつ以上を含む回答が110人。半数以上(57%)が、AI界隈で広く流通している語彙のどれかで答えている。残りも語彙のバリエーションは多くなく、似たような表現が並んでいる。
さらに気になる数字がある。194人のうち51人(26%)は、設問にちゃんと答えていなかった。「ゴールが見えた」一行で終わっていたり、LP制作のデザイン指示書を貼り付けていたり、自己紹介だけで埋まっていたり ── 4分の1の学生は、自分とAIの関係を言葉にすることに辿り着いていない。
対話するだけでデプロイ済みのページが世に出る、という第1の迫力の裏で、自分の言葉でAIを語ることだけは、簡単になっていない。むしろ要らなくなった分、薄くなっている。
ここからが本題だ。
194件の海の中に、テンプレ語彙では絶対に出てこない言葉が、ぽつぽつ落ちていた。実数で並べる。
- AIを「鏡」と書いた学生 ── 4人
- 「伴走者 / 伴奏者」 ── 3人
- 「怖い」と素直に書いた学生 ── 3人
- 「使われる側」「奪われる」 ── 8人(意外に多い)
- 「ドラえもん」 ── 2人
- 「執事」 ── 2人
- そして、たった1人ずつ ── 「彼女」「半身」「故人との対話のために」「奴隷」
194件を読み通して、私が線を引いた紙片は、最後の一つだった。
「奴隷のような存在です。自分の指示したことを逆らわずに聞いて答えてくれるからです」
「奴隷」と書く学生は、たぶん多くの教室では評価されない。倫理的に微妙だし、AIへの理解が浅いと見なされやすい。けれど私はこう思っている ──「逆らわずに聞いて答えてくれる」という観察は、今の対話型AIの動作を、テンプレなしに直視している。自分の言葉で、自分の体験から出てきた言語だ。
これは直感力だ。正解っぽい言葉を選ぶのではなく、自分が実際に感じたことをそのまま言語化する力。AIが最も苦手とするのはここだ。AIは「それっぽい答え」を生成するのは得意だが、「あなたがそう感じた理由」は持っていない。
だから、本当に強い使い方は逆になる。あなたの直感が主語で、AIが奴隷として支える。自己分析でも、企業研究でも、文章を書くときでも ── 「なんかこれ違う」「これだ」という直感をAIにぶつけ、それを掘り下げさせる。AIに先に「正解」を出させる使い方とは、まったく別の話だ。
「奴隷」でいい、と私は思っている。
その言葉は、使い方の本質を突いている。どんな呼び方でもいい。大事なのは、あなたの直感を主語にして、とことん使い込むことだ。
ちょうどこの授業と同じ時期、ある高校生がXに投稿した。サイゼリヤの非公式クライアントを自作し、さらにCLIを作って、AIに実際の注文を実行させた、というハックだ。
多くの大人が倫理的に叩いた。
私は逆のことを思った。「APIを解析してAIに注文させる」という発想は、正解を知ってから動いたのではない。「これできるんじゃないか」という直感が先にあって、AIがその実現を支えた。まさに直感が主語でAIが奴隷の構造だ。グレーを突き進む力は、AIが代替できない人間の力だ。
私はこういう学生を支援したいと強く思っている。
AIとともに学ぶことで、知る系の知識の習得速度は圧縮された。GitHubもVercelも、第1回の授業で194人が同時に通過した。答えがある、手順がある、正解がある種の学習 ── これは今後さらに圧縮が進む。
逆に価値が増すのは、映す系の知識だ。自分がどう感じたか、なぜそう判断したか、どんな失敗をしたか ── これは経験を積むしかない。そしてその経験の積み重ねこそが、その人らしさを醸成する。
別のプログラム(就職支援)でのデータを見ると、AI利用回数が多い学生ほど選考が進む傾向がある(n=9、匿名)。これは使い方を「知る」ために使ったのではない。「自分はこう思う」「これは違う」という直感をAIにぶつけ、自己分析・企業研究・ES作成を何度も掘り下げた ── 直感を主語に使い込んだ結果だ。
※ 就職支援AIプログラム(別クライアント)のデータ。個人・機関名は匿名化。n=9。AI利用回数 = 自己分析・企業分析・ES作成・面接対策での利用合計。選考ステージは2026年5月時点。
だから私の3ヶ月のゴールはひとつだ。
それっぽい答えを作るな。あなたの直感をAIにぶつけ、とことん使い込め。
使い込んだ先に生まれる言葉が、その人の本当のAI観になる。
3ヶ月後、194人それぞれがどんな言葉でAIを語るようになるかを、ここで観察していく。
※引用は受講生の同意のもと匿名化して掲載しています。 ※数値は2026年度第1回提出 n=194(受講登録237名中)の実カウントによる。